2006年 7月29日 | |
■ くいしばる ■ まだ暑さの残る午後6時半を過ぎた頃 市内の総合病院の休日外来の待合席に座っていた。 午前中も入院中の爺ちゃんをお見舞いに来た病院。 偶然にも今日が休日の当番医となっていたのだ。 そして今は患者として順番が来るのを待っている。 7月最後の週末。 本来ならば迷わず海水浴♪といきたかったが スイミングスクールへ体験入学している次男。 その最終日とあってその様子を見に行く事にした。 想像した以上に元気にやっている。 と言うか元気過ぎて? インストラクターの話をあまり聞いていない(^^; スイミングスクールを終えると次男と一緒に 婆ちゃんを連れて爺ちゃんのお見舞いだ。 すっかり梅雨も明けて見事な 夏! 空は青く眩しく、海が恋しい… その風景を複雑な思いで病院から眺めていた。 そして午後 婆ちゃんとホームセンターやショッピングセンター を回り買い物に付き合わせたり付き合ったり。 最後に行った100円ショップでは子供たちのも含め ポッパーを数個買ってもらった。 そう、帰宅後はトップのデイゲームを企んでいたのだ。 狙いはトップティヌ。 用事を済ませていた長男も『いく〜』と言うので 次男と三人での出撃となった。 午後三時を過ぎても容赦なく照り付ける日差しを 心地良く楽しみながら大潮干潮の海へと向かった。 以前から気になっていたそのポイントは程よく 潮が引き干潟の雰囲気もなかなかいい。 そんなに水深はいらないというトップティヌ。 期待で胸は一杯だ。 次男のタックルはバスロッドの5フィートに アルテグラの1000SDH。 ラインは巻替えたばかりのフロロ6lb。 そしてルアーは100均ポッパー。 タックルの準備を終えて 「ほらっ、いいぞ」 そう言って自分のタックルの準備に入ると 『お父さん、魚がおるよ♪』 『ベイトがおるねぇ〜』 と次男と長男の声が相次いで聞こえて来た。 (先に釣るなよ…) とちょっと焦りながら少し遅れて参戦。 するとベイトの群れが頻繁に回遊している。 ポッパーよりも小さいくせに追いかけて来る元気印も。 時折りセイゴクラスのライズも確認出来て雰囲気は いいのだがポッパーを撃つ以外に今日は手が無かった。 そしてバイトの無いまま第二ポイントへ。 ここも初めてのポイントだったが 潮が引き過ぎてあたり一面の干潟。 僅かな流れ込みだけでキャストポイントが無い。 そして第三、第四とポイントを移動するがキャスト する事無く第五のポイントへ。 車を降りてポイントを確認すると今がチャンスと 言わんばかりの潮の高さ。 今度こそはとかなりの期待感で逸る気持ちを抑えながら タックルを車から降ろそうとしたのだが… 看護婦:『しん吉さ〜ん』 しん吉:「は〜い」 そしてその返事に歩み寄る看護婦さん。 看護婦:『あら〜っ!痛みますか?』 しん吉:「はい」 看護婦:『まだ順番をまってる方が居るのでもう少し待って下さいね』 その看護婦さんの優しい応対にしばし痛みも忘れる。 そして待つ間もその滑稽な様子にシャッターを押すバカなオレ。 先生:『しん吉さ〜ん』 しん吉:「は〜い」 ようやく順番が来て診察室へと足を運ぶ。 先生:『どうされましたか?』 しん吉:「こ、これです」 先生:『 ・・・ 』 先生:『どうあれ抜くしかないですね』 しん吉:「このまま?やっぱり…」 想像していた通りの治療方だがまだ心の準備が出来ていない。 なのに看護婦さんはしん吉の左手を容赦なく両手で掴み押さえ込む。 しん吉:「ちょ、ちょと待って〜」 かなり弱気である。 しん吉:「大声張り上げてもいいですか…」 看護婦:(フフフッ) 先生:『ピンセットで抜きましょう』 (ピ、ピ、ピ、ピンセット!) (そんな物で抜ける筈が無い) 全身を恐怖が襲い頭が真っ白に… しん吉:「先生!ピンセットはやめて下さい」 先生:『 ・・・ 』 しん吉:「ペンチか何かで一気にお願いします」 先生:『 ・・・ 』 看護婦:『先生、あれはどうですか?』 そう言って暫くして看護婦さんが持って来た物は 外科手術で使う小さなヤットコ?の様な道具。 先生:『これならペンチに似ているな』 しん吉:「先生、一気にお願いしますよ」 そう言って呼吸を整えようとするのだが 待った無しでしん吉の左手を押え付ける看護婦さん。 (ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ〜) その願いも虚しく 看護婦:『先生!早く!』 しん吉:「ちょ、ちょ、ちょっ…」 看護婦:『大丈夫ですよぉ〜』 (何が大丈夫やねん) (こ、こ、心の準備が…) (ギャァァァーーーーーッ!) そしてついに始まった。 悶絶寸前の例えようの無い激痛! (ギャァァァーーーーーッ!) 歯を食い縛り心の中で叫び続ける。 (イタタタターーーーーッ!) 止まない激痛! 先生はいったい何をしているのか? そしてもうそろそろ我慢の限界だ。 歯を食い縛りながらうつむいたままで 右手を上げ先生に手のひらを向けながら しん吉:「せ、せ、先生…」 (この精一杯広げた右手はストップの…) それでも先生は気付いていないのか… 相変わらず手緩い力で抜こうとしている (ギャァァァーーーーーッ!) グイ! グイ! グイーーーッ! (ギャァァァーーーーーッ!) 悶絶! この言葉の意味を理解出来たかも… しん吉:「ちょっと待ってぇ〜!」 広げた右の手のひらを先生に向けて嘆願する。 先生:『 ・・・ 』 しん吉:「せ、せ、先生、一回休憩しましょう」 頭を深く下げたまま激痛に耐える言葉がようやく通じた。 しん吉:「せ、せ、先生…」 先生:『 ・・・ 』 しん吉:「一気にやってってお願いしたでしょ…」 先生:『なかなか抜けませんねぇ』 しん吉:「次は思いっ切りお願いしますよ」 しん吉:「先生、思いっきりですよ」 そして覚悟を決めて歯を食い縛りながら頭を下げる。 すると・・・ 看護婦:『先生、ここを掴んで引っ張った方が…』 しん吉:「 ??? 」 先生:『あぁ〜ここねぇ〜』 (ちょ、ちょっと待て…) (いったい今までどこを掴んで引っ張っていたのか) パッと頭を持ち上げ しん吉:「せ、せ、先生〜」 先生:『 ・・・ 』 しん吉:「こ、ここですよ」 先生:『あぁ〜ここねぇ〜』 しん吉:「ここじゃないと…」 言い終える前にまた看護婦さんの両手に力が入り… 反射的に目をギュっと閉じて歯を食い縛る。 (ギャァァァーーーーーッ!) しん吉:「 うっ・・・ 」 (ギャァァァーーーーーッ!) しん吉:「 うっ・・・ 」 (ギャァァァーーーーーッ!) するとしん吉の左腕を押え付けている看護婦さんの 力強い声が頭の上から聞こえて来た 看護婦:『先生!もっと力を入れて!』 先生:『 ・・・ 』 しん吉:「 ・・・ 」 (先生、とにかく頑張って…) (ギャァァァーーーーーッ!) そして… 左腕を押え付けていた看護婦さんの両手の力が緩んだ。 看護婦:『抜けましたよ♪』 それは左手の指に伝わる衝撃で解かってはいたが 看護婦さんのその声でようやく全身の力が抜けた。 ふぅーーーーーっ!!! 先生:『やっと抜けましたねぇ〜』 しん吉:「だから思いっ切りやってって…」 先生:『まだ痛みますか?』 しん吉:「せ、せ、先生〜」 しん吉:「コノヤロ〜って言いたい感じです」 先生:『 ・・・ 』 しん吉:「先生、魚釣りは…」 先生:『した事無いですねぇ〜』 (やっぱり…) この状況でピンセットと聞いた時から想像出来た。 しん吉:「先生、ここ」 先生:『 ・・・ 』 しん吉:「ここに返しがあるでしょう」 先生:『ほぉ〜だから抜けないんですね』 しん吉:「 ・・・ 」 しかし白衣を着た笑顔のカワイイ看護婦さんが 痛がる患者の腕を容赦無く押え付けながら言った 『先生!もっと力を入れて!』 あの一言はとても印象的だった。 第五のポイントで何が起きたのか… タックルを組んだまま載せていた100均ポッパーの フロントフックがウエストバッグのベルトにガッツリ! それを外そうとプライヤでフロントフックを掴み 左手はベルトのフックが掛かっている直ぐ近くを持って 力を込めてプライヤをグイグイと… すると以外にも簡単に外れた。 そして 力余ってプライヤを握る右手は前方へ その弾みでポッパーのリアフックが… 以外に抵抗は無かった。 全くと言っていいほど。 100均のフックも捨てたもんじゃない。 気付くと左手の薬指にリアフックがグサリ! 全くと言っていいほど抵抗無くあっさりと 刺さったせいか痛みも全く感じない。 その様子は普通じゃないのだが 普通にデジカメの写真は撮れた。 被写体が動かないので撮り易かった。 その時は本当に痛みが無かったので 自分でも抜けそうな気がしたのだが ちょっと想像すると… そこまでの勇気は持ち合わせていなかた。 釣りを続ける事も出来そうな感じだったが 冷静な長男に促されて病院へ行く事にした。 スクープ写真?を撮り終え片付けを済ませ 子供達を自宅へ連れて帰る。 「ゴメンな…」 「お父さんの不注意で…」 「でもお前らじゃなくて良かったよ…」 そして自宅へ向けて暫く車を走らせていると 徐々に指先にフックの重みを感じるようになってきた。 ズキッ! 車が揺れる度に ズ ズ ズ ズキッ! 初めての経験。 子供たちには経験して欲しくないし 自分ももう懲り懲りだ。 ちょっとした気の緩み。 落とし穴はいつも直ぐ近くに… それにしても… あんなに歯を食い縛ったのは何年振りだろう? 初めてだったかも知れない… 子供にゲンコツを入れる時のしん吉の口癖。 「歯を食い縛れ!」 誰かに教えられいつの頃からか使っていたこの言葉。 子供達の役に立って欲しいような欲しくないような… トップティヌ! 次こそは呪われたフックで。(^o^)V |
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